闇の大三角形(Dark Triad)

Furnham, A., Richards, S. C., & Paulhus, D. L. (2013). The dark triad of personality: A 10 year review. Social and Personality Psychology Compass, 7, 199-216. doi:10.1111/spc3.12018

Paulhus, D. L. & Williams, K. M. (2002). The Dark Triad of personality: Narcissism, Machiavellianism, and psychopathy. Journal of Research in Personality, 36, 556–563. doi:10.1016/S0092-6566(02)00505-6

最初に投稿したブログ記事(ナンパのやつ)は,Dark Triadというパーソナリティ概念についての論文。でも,Dark Triadについてはさらっと説明しただけだったので,ここで改めて説明したいと思います。

発端は,Paulhus & Williams (2002)じゃ。端的に言うと,マキャベリアニズム,ナルシシズム,サイコパシーに共通点が多く見られ,これらはDark Triad(闇の三つ組み。中二病が再発しそうだ笑)という一つの概念として確立できるんじゃないの?というもの。ちなみに,この論文では,“共通要素はあるが,それぞれ異なるものとして分離できる”と結論づけている。

まず,サイコパシーの説明。サイコパシーは,共感性の欠如,他者操作性,不安定なライフスタイル(衝動性),反社会的傾向によって特徴づけられる。特に,最初の2つがサイコパシーを特徴づける。ちなみに,後ろの2つは反社会性パーソナリティとオーバーラップするといわれる。こいつらは他者を騙すので,サイコパシーの程度を測定し診断するのも容易ではない。訓練された専門家が半構造化面接によってサイコパシーを測定・診断する。はずだったのだが,現在は自己報告式の尺度も開発されている笑
次に,ナルシシズム。自己愛性パーソナリティ障害として,臨床分野でも研究がなされてきたが,この特徴は健常群にもパーソナリティ特徴として当てはまる。具体的には,尊大さ,自己顕示欲,特権意識など。測定は質問紙で行うことが可能。
最後にマキャベリアニズム。ナルシシズム,サイコパシーが臨床的な側面から研究されてきたのに対し,マキャベリアニズムは理論的に概念化されたパーソナリティである。君主論で有名なマキャベリが由来。過度な自己中心性と自己のための合理的判断を特徴とする。マキャベリアニズムを測定する尺度は,マキャベリの文章をベースに作成された(らしい)。

では,これらはどのような側面で共通するのか?
1つは,冷淡な感情と他者操作性。これはサイコパシーの中心的特徴であるが,同時にDark Triadの他2つにも当てはまる。Dark Triadは他者に共感性を示さず,自分の目的のために他者を“道具的に”扱おうとするという特徴がある。研究者によっては,冷淡さと他者操作性がDark Triadの核であると主張する。
2つめは,5因子モデル(Five Factor Model: FFM)との関連。FFMは,世界的にも共通するパーソナリティ特性のモデルであり,パーソナリティは5つの側面,すなわち,経験への開放性(openness),誠実性(consiousness),外向性(extraversion),調和性(agreeableness),神経症傾向(neuroticism)から構成される,というものである。Dark Triadの各側面は,この中でも特に調和性と負の関連を示す,つまり,Dark Triadは調和性が低い,ということが共通している。
3つめは,短期的な配偶志向である。恋愛関係や結婚関係は,一般的に長期的な関係を想定しているだろう。このような交際形態に対して,一夜限り(または浮気など)の性関係や恋愛関係が短期間で変わっていく交際形態がある。前者は長期配偶,後者は短期配偶と呼ばれる。Dark Triadは,短期配偶を行うことが共通している。また,交際経験や性的関係が多いことも指摘されている。
そのほかにも様々な共通性が見られる。道徳性の欠如,嘘をつく,自己中心的など。

しかし一方で,各々の独自性もある。
たとえば,反社会的行動はサイコパシーで際立つ特徴であるし,自己賞賛欲求はナルシシズムに特有である。また,マキャベリアニズムはシニカルな世界観(こんな世界どうでもいいだろ,みたいな考えと理解している)と戦略的操作(自己の利益を最大にするために他者の道具的扱いの方法を熟考し行う)が特徴である。

こう考えると,共通する側面は実は,表出された行動や志向が単純に似ていただけで,それぞれの行動・志向の表出の下にある原因が異なっている可能性がある。
Dark Triadという概念について研究がされ始めたころは,各3パーソナリティの総計をDark Triad得点として扱い,これが他の変数とどのように関連するのかが示されてきたが,最近ではむしろ,Dark Triadの各側面を説明変数とした重回帰分析で関連を示す研究が多いように感じる。重回帰分析で算出される偏回帰係数は,ざっくり言えば,“当該の変数のうち他の変数と共通する要素を統制した,当該変数特有の効果”を示す。つまり,サイコパシーの偏回帰係数は,サイコパシーと共通するナルシシズムの要素,また,サイコパシーと共通するマキャベリアニズムの要素を除外した,サイコパシーのみの効果を示す。

これらの研究から,Dark Triadの各側面が他の変数に対してそれぞれ特有の関連を示すことがわかった。
たとえば,攻撃行動は,サイコパシーは衝動的に攻撃する一方,ナルシシズムは他者に自己概念を脅かされた時に反応的に攻撃し,マキャベリアニズムは自己の利益のために計画的な攻撃を行う。
まあ,そもそもPaulhus & Williams (2002) では3パーソナリティは分離できるという結論だったしね。
ちなみに,Furnham et al. (2013)も(たぶん)分離できる派。

ここからは私の解釈。私は分離・共通の判断ができるほど勉強できていないので,この判断は避けるが,なんとなくこんな感じがする。それは,
マキャベリアニズム:人のことは気にせず自分のことのみ合理的に,系。
ナルシシズム:ねえねえ構って構ってこっち見て!系。
サイコパシー:衝動的なへいへいやっちまえー系。

ちなみに,Dark Triadにサディズムを加えたDark Tetradという概念も提唱されつつあるのだが,それはまた今度(書けたら)書こうと思います笑

統計について思うことをつらつらと

統計解析はおもしろい。そして、基本的な分析はだいたい回帰分析の応用なのだ。そう考えるとわりと同じ次元で理解することができる(気がする)。もちろん、SEMは最小二乗法ではなく最尤法だったり、コレスポンデンス分析などのカテゴリカルデータの分析はよく理解していないのだが、心理学一般で使われる予測・説明の分析はだいたい回帰分析の枠に収まる。
特に、差の検定の代表である分散分析も同じ枠組みっていうのは学部での授業から考えればなかなか衝撃的な話。分散分析のキモは交互作用だと思ってるし、心理学はたとえば2つの対立する理論は第3の変数による交互作用効果の結果として考えられてきた経緯があるので、まあ学部では分散分析を教えるとこから始まる。

ただ、授業で教える分散分析よりも回帰分析の枠組みで交互作用を考えたほうがより精密な結果を提示できる。
しかも、回帰分析の枠組みであっても視覚的に原理を示すことは可能だし、わかりやすさの点からいってもさほど変わりはないのではないかと思う。
交互作用だけではなく、説明率、偏回帰係数、因子分析など重要な指標を統合的に理解できるし、媒介分析、マルチレベルモデルなどの最近多く使われる手法にも応用できる。
あと、回帰分析の枠組みがちゃんと理解できていれば、因果を明らかにする分析なんてあほな説明はなくなると思う。

みたいなことを考えてると、はじめに分散分析を教えるメリットってないよなあ。むしろこれを先に教えることで、統合的な理解の妨げにすらなる気がしている。
その点、心理統計学の基礎(南風原2002)はとても素晴らしい基礎の教科書だと思う(これをベースに勉強したからこういう考えを持ったというトートロジー的な側面ももしかしたらあるかもしれない笑)
ぶっちゃけこの本は1人で読むのは難しい人はたしかに多いと思うのだが、そんなのは教える人によってどうにでもできるんじゃないかなと思っている。

なので、ここまでの結論としては、回帰分析をまず理解すればだいたいの統計手法に応用できるし、統計の教育もそれをベースにすればいいじゃん、ということ。

ここで問題になるのが、統計的仮説検定そのものが否定され始めているという現状笑
mcmcでリサンプリングしまくってこっちで分布作ってしまえばよくねって話(だと理解している)。
この発端はp値による議論に対するアンチテーゼだったよな確か。ベイズ推定の考え方は、確かに直感とマッチしているのでそれだけ聞くとわかりやすい。
が、統計的仮説検定の枠組みを知っていないとベイズ推定の枠組みってわかりにくいんじゃないかな。
そして、だいたいベイズ推定の議論では統計的仮説検定がだめだ、という前提があるように思う。
具体的にやり玉にあがるのは背理法的考えと最尤法。
まず、背理法的考え方の問題は直感にマッチしないだけなんじゃないかな。ただし、ユーザーの問題として、p値の過大視と、nsだった時に関連がないと言い切る(言い切らざるを得ない)ことが挙げられると思う。これは結局手法の問題というより研究者の研究姿勢にかかってる問題であって、p値や背理法そのものに対する本質的な問題ではないように思う。
次に、最尤法の問題は、分析不可だったり、間違ったとこを最大尤度としちゃうとこだろうか。
ただ、そんながたがた分布を再構成し直して、ちょっと複雑っぽいモデルを解釈することにどの程度の意味があるのかが今一わからない。もちろん現実の分布はきっとがたがただろうし、現実に即していた方がいいに決まってる、という話はその通りだと思うのだが、それを言い始めると、最終的には個人差を細かくし過ぎて結局よくわからんみたいな話になりそうな気もする。
ニューラルネットワークも認知心理の枠組みというよりもはや神経生理の枠組みみたいな感じだし、心理学が示すのはいわゆるモデルであって、現実をそのまま描くのとはちょっとことなってもいいんじゃないかな。
そうはいっても、全体のモデルが示された上でそれに当てはまらない個人差を地道に説明している段階が現状だと思うので、やはり個人差とかより現実に即したものを示すことは重要だと思うが。

ここまでで思うところは、確かにより現実に即した結果は重要だし、ベイズ推定は統計的仮説検定に比べるとより効果的だと思う。
だが、統計的仮説検定は無意味ではなく、それゆえ統計的仮説検定を排除していくということに疑問を感じる。

そもそも、ベイズ推定はより現実に即しているのか?
単純に、手持ちのデータからランダムにサンプリングをすることを繰り返すだけなのだから、元のデータが偏っていたら結果も偏るだろうし、その場合この点においては統計的仮説検定と違いはない。
それに、ベイズファクターによるモデル評価は、結局基準が便宜的に定められているので、統計的仮説検定におけるp値と、その閾値の厳しさの程度はあれど、本質的な違いはないのではないだろうか。
こう考えていくと、ますます統計的仮説検定の排斥は方向性としては極端かなとも思ったりする。

ただ、ベイズの話はしっかり理解しているわけではないので、間違った解釈も多々あると思う。
そう考えると、やっぱり知る必要がある。
知らないのと知っていて使わないのとでは圧倒的な違いがあると思う。それに、自分がこう思うから統計的仮説検定(ないしベイズ)は教えない、というのは、学生にとってはそうではない可能性を踏まえれば、やはり客観的な視点でちゃんと全部教えた方がいいよなあ。それに、なんだかんだベイズは発想としてすごいと思う笑

あと、やっぱりベイズにしろ統計的仮説検定にしろ、統計そのものがおもしろいんだよなあ笑
だからがっつりはまってがっつりやりたいけど、統計のおもしろさを知ったのは統計(計算)そのものではなくそれをツールにして何かを明らかにする、みたいな側面があったからだから、多分統計そのものをやってしまったらつまんなくなっちゃうかもなー。
あと、個人的な嗜好としては、統計ソフトにモデルを入力し、それがアウトプットされることにカタルシスを覚えるという側面もある笑

ただ、常に気をつけておきたいのは、研究は研究者の研究手法に依存し、統計は結果を裏付けるための手段に過ぎない、ということ。
これを忘れると心理学者ではなくなってしまう。まあそれが良いか悪いかはわからないが、少なくとも私が生きていける領域ではない笑

なんにもしたくなーい

http://www.princehotels.co.jp/shinyokohama/restaurant/top_bar/

後輩ちゃんがラストバイトということで、新横浜のプリンスホテル42Fのバーに来た。
凄く落ち着けるところで、夜景も綺麗。流石プリンスホテル笑
今日はすぐに帰る感じになったけど、またきたいなあ。
(写真が食べかけなのが悔やまれる笑)
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パートナーへの暴力は男性が女性に対して行うものなのか?

Straus, M. A. (2008). Dominance and symmetry in partner violence by male and female university students in 32 nations. Children and Youth Services Review, 30(3), 252-275. doi: 10.1016/j.childyouth.2007.10.004

この論文で分かったことは大きく分けて次の2つ。
・パートナーへの暴力は,お互いに行うというパタンが多く,次に女性が男性に行うパタンが多い。
・IPVのリスクファクターとして男女とも支配性が高い。

社会問題としてDVがある。ただし,DVは,例外はあるが,婚姻関係にあることが前提となっている。
しかし,婚姻関係にない恋人同士においても同様の暴力が発生することがある。
そのため,婚姻関係の有無にかかわらず,このような暴力を“親密なパートナーに対する暴力(Intimate partner violence: IPV)”として包括的に研究がなされている。

IPVは,直感的には男性が女性に対して行うと考えられやすい。
事実,日本のIPVに関する行政の措置や論文は,男性が女性に対して行うものという前提で話が進められている。

でも,実はそんなことはないのだ。
ということを,32の地域からサンプルを収集し(その数13,601人!),分析したのがこの研究だ。
全サンプルの内,4239人はパートナーとの暴力があったと報告しており,このサンプルについて詳細な分析がなされた。

結果,IPVで最も多い形態は,双方向,つまり,お互いにIPVをするパタンだったことが分かった。これはIPV発生カップルのうちの大体7割を占める。
IPVの中でも重大な暴力(蹴る,殴る,銃やナイフを向ける)なども双方向パタンが全体の6割を占めた。
かつ,直感に反して,双方向の次に多いパタンは女性から男性への暴力で,特に重大な暴力では3割弱を占めている。

IPVのリスクファクターとして支配性が挙げられる。
ここでは支配性を質問によって測定しており,具体的な項目は,“パートナーは私が管理しているという事を自覚している必要がある”など。
支配性に加え,年齢,交際期間,経済力などから,IPVをする/しないを予測できるかどうかの分析を行ったところ,支配性の予測力が他の変数に比べてもとても強いことが分かった。
具体的には,支配性得点が1高まると,IPVリスクは2倍弱から5倍以上になる。他の変数はほぼ予測力がない(※ただし論文に記載されている信頼区間と整合していないので,私の読み間違えか論文の間違いがあるかも)。
特に,支配性は男女どちらでも重要なリスクファクターであるという点が興味深い。

直感に反する結果は示されているのだが,これが世間一般にどのように広まるか,とか,行政はどのように受け止めて対応するのか,など課題は尽きませんねー。
最近,ニュースでも男性のIPV被害のトピックがありましたが,それだけで物珍しいような記事になることそのものが云々

ダイエットはあなたをスーパーモデルにさせるのか?

Tovée, M. J., Mason, S. M., Emery, J. L., McCluskey, S. E., & Cohen-Tovée, E. M. (1997). Supermodels: Stick insects or hourglasses? Lancet, 350, 1474-1475. doi:10.1016/S0140-6736(05)64238-9

スーパーモデルになるために食事制限をして細くなればいいのか?
これを検証したのがTovéeのグループ。
って言ってもスーパーモデル云々は枕詞みたいなもの。
魅力的な女性はどのような体型をしているのか,というのがリサーチクエスチョン。

300人ずつのファッションモデル,グラマーモデル,一般女性に加え,拒食症患者30人の身長,BMI,ウエスト,ヒップ,バストのデータを収集した。
結果,1)ファッションモデルは他よりも背が高いこと,2)ファッションモデルとグラマーモデルはよりくびれのある体型(砂時計体型)なことがわかった。
特に,背の高い砂時計型はより曲線的に見えて,この曲線が女性の身体的魅力に重要な要素なのだ。
つまり,細くなることが必要条件なのではないのですねー。

この論文のオチは,食事制限はあなたをVogueのカバーガールにはしませんよ,だそうです笑

ヤなやつのナンパパフォーマンスは曇りの日にアップするか?

ブログを開設した。
論文とかその日のこととか書いていこうと思います。
続けられればいいなー。

Rauthmann, J. F., Kappes, M., & Lanzinger, J. (2014). Shrouded in the Veil of Darkness: Machiavellians but not narcissists and psychopaths profit from darker weather in courtship. Personality and Individual Differences, 67, 57-63. doi:10.1016/j.paid.2014.01.020

ダークなパーソナリティがある。ナルシシズム(尊大な自己感),サイコパシー(冷淡さ,衝動性),マキャベリアニズム(他人を操作的に扱う,自分に都合のいい行動をとる)をまとめてDark Triadという。

今回の研究は,Dark Triadは太陽の光が届かない時にナンパパフォーマンスがいいのではないか?ということを検証した研究じゃ。
まず,参加者男性はDark Triad尺度に回答し,ビデオクリップに撮られた。
その1~3週間後に女性をナンパし,その時の女性の笑顔と男性に対する評価(これはナンパ後にアシスタントがその女性にインタビューした。ちなみにこのアシスタントはナンパ中の参加者男性の評価もしている)を測定した。
また,その時に天気も記録した。

→結果,Dark Triadのうち,マキャベリアニズム傾向が天気・ナンパパフォーマンスと関連した。
どうなったかというと,晴れの日にはマキャベリアニズム傾向が高いほどパフォーマンスは落ちる(評価が悪い)が,曇りの日には,マキャベリアニズム傾向が高いほどパフォーマンスが上がるのだ笑

Dark Triadはズルや他者の欺きが特徴的なパーソナリティで,これがばれないような暗い時(曇り)にパフォーマンスがいいのでは,という考察。ただし,暗い→いい評価ではなく,暗い→自信が高まる→いい評価という間接的な効果を指摘。

まあぶっちゃけ考察に関しては(このままの文章だと)取ってつけた感あるし,ちゃんと説明すると冗長になるのでやめますが,
この研究の何がすごいって,データの測定。

これ,男性参加者は“求愛プロジェクト”という名目で募集された。18歳以上独身異性愛者男性59名。
そしてこの人たちに,“5時間以内に25人の女性にアプローチできたら25ユーロだぜ!!”と教示し,フィールド調査スタート。
そしてナンパされた女性はなんと1359人!!笑
やりすぎだろーこれ笑いいなー。つーかこんな教示しといてよく「自然な状態での研究です!」とか言えんな笑

これは方法が,えーいやったれー感があって面白かったのでめでたく初ネタに笑
世の中は広い笑