自分を制御できない!

この前のパーソナリティ心理学会(第25回大会;於 関西大学)で口頭発表をさせていただいたシンポジウムはDark Triadと自己制御がテーマでした。
そのため今回はシンポジウムの最初にも紹介されていたDark Triadと自己制御系の論文の紹介。
ざっくり言うと,自己制御とDark Triadを質問紙で測定し,その関連を示したというもの。
結論から言えば,サイコパシーとマキャベリアニズムは自己制御が低いというもの。
ただし,いくつか気をつけなきゃいけない点も。

Jonason, P. K., & Tost, J. (2010). I just cannot control myself: The Dark Triad and self-control. Personality and Individual Differences, 49(6), 611-615. doi:10.1016/j.paid.2010.05.031

この論文では2つの研究が行われた。両方質問紙調査。
研究1では,N=259,大学の心理学科生(72%が女性,平均21歳)での調査。
Dark Triadの測定は,NPI(ナルシシズム測定),SRP-III(サイコパシー測定),Mach-IV(マキャベリアニズム測定)でそれぞれDark Triadの各側面を測定し,また,各得点を標準化して参加者ごとに全平均した得点をDark Triad得点とした。
自己制御の測定は,自己制御尺度,将来結果の展望尺度,大人用ADHDチェックリスト
結果,Dark Triad特典は自己制御,将来結果の展望と負の関連が示され,ADHDと正の関連が示された。
Dark Triadの各側面に分解して見ると,
サイコパシーは自己制御,将来結果の展望と負の相関,ADHDと正の相関が示された。
ナルシシズムでも,自己制御と負の相関が示された。
マキャベリでは有意な相関なし。
重回帰分析(*)でDark Triadの3側面を説明変数にすると,サイコパシーのみが自己制御(負),将来結果の展望(負),ADHD(正)に特有な関連を示した。

研究2では,N=97,大学の心理学科生(73%が女性,平均19歳)での調査。
Dark Triadの測定はDark Triad Dirty Dozen(DTDD)で,これはDark Triadの各側面を4項目ずつで測定する合計12項目の尺度。
自己制御は研究1と同様,自己制御尺度,将来結果の展望尺度,大人用ADHDチェックリスト。
研究1と同様,Dark Triadは自己制御の3変数と有意に相関した(自己制御,将来結果の展望と負,ADHDと正の相関)。
一方で,Dark Triadの各側面に分解すると,
サイコパシーはADHDとの関連が優位ではなく,
ナルシシズムは自己制御との負の関連に加えてADHDとの正の関連が示された。
マキャベリは研究1とは異なり,自己制御の3変数と有意な相関を示した(符号のパタンはDark Triad得点と同様)。
重回帰分析でも研究1とは異なり,マキャベリのみが自己制御,将来結果の展望に特有の負の関連を示した。

結局,Dark Triadの各側面を独立に測定する尺度を用いるとサイコパシーの自己制御が低い,という結果で,DTDDで測定するとマキャベリの自己制御が低い,という結果になるということ。
これはJonasonとTostもリミテイションとして挙げているのだけれど,ちょっと雑すぎやしませんか笑
まあパブリッシュされているから大正義かもしれないけど。

結局,Dark Triadが自己制御不全なのか,Dark Triadのうち自己制御が低いパーソナリティがあるのかどうかは不明のままですねー。
ちなみに,この論文では進化心理学的観点からの考察がなされていて,そこで言及された進化理論は生活史戦略理論というもの。
これもなかなか危ういのだけれど,考え方として面白いのでいずれ紹介したいと思います。

*重回帰分析
2つの変数の関連性を検討するのだが,そこで算出される係数(偏回帰係数)が一般的な相関係数(ゼロ次相関)とは異なる。
具体的にはゼロ次相関ではなく部分相関みたいなもの。
変数がx1,x2,x3,y,という状況を考える。
x1とyの関係を検討する際に,相関分析ではゼロ次相関を算出する。
ここで,x1にはx2やx3と共通する要素が入っているため,x1とyの相関係数はx1“特有の”yとの関係ではない。
一方で,重回帰分析でx1-3を説明変数,yを目的変数とし,x1とyの関係を検討する際には偏回帰係数を算出する。
偏回帰係数は,当該の説明変数以外の説明変数を統制したyとの関連を示すもの。
つまり,x1に含まれるx2やx3の影響は除外し,x1“特有の”yとの関連性を示す。

Dark Triadの研究でよくなされるのが,相関係数と偏回帰係数を算出するというもの。
相関係数はもはや慣例みたいな感じで,偏回帰係数で考察する。
マキャベリ,ナルシ,サイコを説明変数とした重回帰分析をすることで,それぞれの偏回帰係数は当該変数以外の効果を統制した,当該変数特有の効果,と言えるためである。
※もちろん,厳密に当該変数特有の効果,ということは言えない。なぜなら,当該変数以外の効果として統制できるのは,その分析に投入した説明変数のみであるからである。つまり,説明変数に含まれていないけど当該変数と共通する,という変数があれば,当該変数の効果には,“説明変数に含まれていないけど当該変数と共通する”変数の効果が含まれていることになる。