パートナーへの暴力は男性が女性に対して行うものなのか?

Straus, M. A. (2008). Dominance and symmetry in partner violence by male and female university students in 32 nations. Children and Youth Services Review, 30(3), 252-275. doi: 10.1016/j.childyouth.2007.10.004

この論文で分かったことは大きく分けて次の2つ。
・パートナーへの暴力は,お互いに行うというパタンが多く,次に女性が男性に行うパタンが多い。
・IPVのリスクファクターとして男女とも支配性が高い。

社会問題としてDVがある。ただし,DVは,例外はあるが,婚姻関係にあることが前提となっている。
しかし,婚姻関係にない恋人同士においても同様の暴力が発生することがある。
そのため,婚姻関係の有無にかかわらず,このような暴力を“親密なパートナーに対する暴力(Intimate partner violence: IPV)”として包括的に研究がなされている。

IPVは,直感的には男性が女性に対して行うと考えられやすい。
事実,日本のIPVに関する行政の措置や論文は,男性が女性に対して行うものという前提で話が進められている。

でも,実はそんなことはないのだ。
ということを,32の地域からサンプルを収集し(その数13,601人!),分析したのがこの研究だ。
全サンプルの内,4239人はパートナーとの暴力があったと報告しており,このサンプルについて詳細な分析がなされた。

結果,IPVで最も多い形態は,双方向,つまり,お互いにIPVをするパタンだったことが分かった。これはIPV発生カップルのうちの大体7割を占める。
IPVの中でも重大な暴力(蹴る,殴る,銃やナイフを向ける)なども双方向パタンが全体の6割を占めた。
かつ,直感に反して,双方向の次に多いパタンは女性から男性への暴力で,特に重大な暴力では3割弱を占めている。

IPVのリスクファクターとして支配性が挙げられる。
ここでは支配性を質問によって測定しており,具体的な項目は,“パートナーは私が管理しているという事を自覚している必要がある”など。
支配性に加え,年齢,交際期間,経済力などから,IPVをする/しないを予測できるかどうかの分析を行ったところ,支配性の予測力が他の変数に比べてもとても強いことが分かった。
具体的には,支配性得点が1高まると,IPVリスクは2倍弱から5倍以上になる。他の変数はほぼ予測力がない(※ただし論文に記載されている信頼区間と整合していないので,私の読み間違えか論文の間違いがあるかも)。
特に,支配性は男女どちらでも重要なリスクファクターであるという点が興味深い。

直感に反する結果は示されているのだが,これが世間一般にどのように広まるか,とか,行政はどのように受け止めて対応するのか,など課題は尽きませんねー。
最近,ニュースでも男性のIPV被害のトピックがありましたが,それだけで物珍しいような記事になることそのものが云々